毎回、施主には言葉としてきちんと伝えてはいないのですが、自分の中では毎回きちんとテーマ設定とその検証を行っています。ですが、このテーマをメインに住宅を作るのではないので、裏テーマとして存在のみしているものとなります。
裏テーマの設定は以下のようなルール付があります。
・施主のメインの要望や環境などと大きくリンクしていること
・見ただけですぐに気づくものではなく、だんだんと深く理解してもらえるものであること
・施主の永く住む住宅であることを考え決して失敗ない検証であること
・決してテーマありきで進めないこと
・各物件取組み、自己初であり、おもしろいこと
ちょっと危ない書き方をしてしまうと、毎回の裏テーマ設定とは住宅のプランニングや構成などの科学的な実験とその検証の繰り返しです。これは自分が建築の核心に近づくための術で、今までも毎回これを繰り返すことで設計としての成長を少しづつ行ってきたような気がします。ただし、この実験的テーマ検証は、施主の住宅を利用しながらとなりますので、施主側にメリットがあり、かつ確実に成果を出さなければならないものとなります。同時にこの部分での緊張感はとても大切で、実験的内容が含まれない住宅には設計時の緊張感を必要としない分、モチベーションを維持することが難しく、自分の場合は住宅の質にも密接に関わってくるものとなっています。また、裏テーマありきで住宅を作ってしまうと実験検証メインの住宅となってしまい、施主を完全に置いてきぼりにしてしまうのでこれはよろしくありません。
上記のようなことをいつも考えているので、テーマ自体が住宅の名前になることは自分の場合ないのですが、文章として文字に起こしてその住宅への考え方やまとめ方をレポートとして表現することが各住宅ごとに毎回できるようになりました。同時に「自然素材の」「性能の良い」「明るい」「デザイン性のよい」などの当たり前で誰でも簡単に使える言葉に頼ることは、それ以外に取組がなかった可能性もあり、別に自分ではなくても誰にでも出来てしまうことなのかもしれないと普段から思っているので、せめてお金をいただいて仕事をさせてもらっている以上は、当たり前のことは言われなくても当然のものとして、対価以上の成果を出したいと必死に図面と格闘し、各住宅のレポートをまとめるところまで気を抜かずに行っているつもりです。
深澤直人さんのデザインに対する考え方で、「First Wow ! / Later Wow !」という表現があります。
優れたデザインには2種類あって、
・First Wow !第一印象でひとの心をつかむデザイン。
・Later Wow ! … 第一印象ではその意図に気づかないような普通のデザイン。そのデザインに触れているうち、やや遅れて「あ~!」と気づく。
と分けることができるらしいのですが、出来る限り使用期間の長い住宅のようなものは、後者が非常に大事ではないかといつも考えています。なので普段、裏テーマ自体は施主に全く伝えてないことも多く、見学会の時などに出来上がった住宅を来場した方に説明しながら、ああこういうテーマに取り組んで図面と格闘し検証をした住宅だったなあと改めて噛み締めつつ、いつか施主が生活しながらこのことに気づいてくれるといいなあ、と少しだけ思っています。
毎回レポートにヒントだったり答えだったり結構書いてしまっているのですけれどもね。。。
事務所ごとに色々得意なことってあると思うのですが、僕の事務所はズバリヒアリングとプランニングを得意としています。
と書くと、どの事務所もそうだよ、と思われてしまいそうですが、膨大なヒアリング量とこのテーマ設定で、物件毎の背骨を毎回考えるところは他の事務所とは少なからず違うところではないかと思っております。
写真だと分かりにくく、背景や空間を体験して実感してもらえる部分が大きいのと、新しい事に取り組む馬力はすごく必要なので結構疲れるのですが、ここに設計としての充実感を見出しているのも事実です。