top of page

prefab/プレハブをもう一度考えてみる

2 日前
読了時間: 6分

家が高くなってしまった時代に、設計事務所として考えること

ウッドショックとコロナ禄を経て、住宅の価格はそれ以前と比べて1.5倍、もしかするとそれ以上に上がってしまいました。少し重たい話になってしまいますが、設計事務所を営む立場から、この状況とこれからの家のつくり方について、最近真剣に考えていることを書いてみようと思います。


今からローンを組んで家を建てようと考えられる方は、かなり限られてきています。長くローンを組めるという意味で20代、30代前半くらいまでの若い方しか家を建てられない時代になっていくのかもしれないと、少し悲しく思う部分もあります。自分も含め、真面目に働いてきた40代、50代の中には、少しずつ貯金をして、ある程度資金がプール出来たら土地を買って家を建てようと考えていた方もきっとたくさんいたはずですし、今もたくさんいらっしゃると思います。そういう方がどうやったら家を建てられるのかを考えると、今の状況は正直かなり厳しいものがあります。


自分の事務所も含めて、設計事務所も工務店も、少しでも施主のためになる様にコストダウンを図り、なるべく品質と性能の高いものをつくろうと必死に格闘しています。ただ、その努力で下げられる幅はもう想定をかなり超えてしまっていて、何かしら大きな価格破壊を起こす新しい仕組みが生まれない限り、ふつうに働く人が家を持てる時代ではなくなってしまうのかもしれません。本来この答えを出すのは、資金力も生産力も人も持っているハウスメーカーの役割なのかもしれないのですが、自分は今設計事務所にいるので、まずは設計事務所から見える景色を整理してみようと思います。


設計事務所に相談に来られる方は、ほぼ例外なくデザインに関心があり、設計者と一緒に家をつくることに理解を示してくださる方です。中には資金に余裕があってハイデザインを求める方もいらっしゃいますが、ほとんどは予算は標準的、それでも設計事務所で家づくりをしてみたいという方です。そしてその中には、無印良品が好きだったり、無垢材の手触りや大工さんの手仕事が好きだという方がとても多い。それはハウスメーカーでは叶わないと思って(実際に叶う事は稀なのですが)、設計事務所に声をかけてくださいます。


ところが今は材料が大きく高騰していて、そこに腕の良い大工さんの丁寧な手仕事を求めると、材料も工程も工期も、どれもお金のかかる方向に働いてしまいます。無垢の質感ややわらかな手仕事を求める方は、堅実でつつましい暮らしを大切にされている方が多いのですが、その暮らしとはかけ離れた金額の建物を提案せざるを得ない。施主の求めるものと、私たちが提供出来るものの間に、大きなずれが生まれてしまっています。


このずれを自覚しないまま仕事を続けていると、設計事務所の家づくりはごく一部の人のためだけのものになってしまう。この文章を書きながら、改めてそういう危機感を覚えました。要望も予算もうまく合った方とは家が建つと思うのですが、多くの計画は途中で静かに消えていってしまう様な気がしています。


では、価格の問題をどう打開すればよいのか。5年後、10年後を見据えると、答えの候補は二つあると思っています。一つはAI、もう一つはロボティクス、いわゆるフィジカルAIです。世の中でもよく言われていることなので、そうだよね、と思われるかもしれませんが、大工さんの数がどんどん減っている建築の分野では、フィジカルAIで補えるところを補いながら家をつくっていくのは、かなり現実的で、市場から見ても理想的な展開に思えます。


おそらく、現場でロボットが働くよりも先に起こるのは、工場や加工場での変化です。規格化された壁や床や天井、あるいはユニットがロボットによって生産され、現場ではそれを組み立てるだけになる。このユニット化が進めば、価格破壊が起こる可能性があります。

…と書いていて、どこかで聞いた話だなあと気づきました。ハウスメーカー創成期のセキスイハイムのユニット住宅です。ほとんどを工場でつくり、現場では組み立てるだけ。まさに今考えていた工程そのものです。この先、こうしたユニット住宅にもう一度光が当たる事は、十分あり得るのではないかと思います。


ただ、当時と違うことが一つあります。今の大手ハウスメーカーは、工場で人手を減らせたとしても、営業、設計、現場監督を含めた社員の数が多く、その人件費を抱えたままでは、ユニット化で下がったコストを価格に反映するのは難しい。ちょっと危ない書き方をしてしまうと、価格破壊を起こせるのは、新しく、若く、小さく、身軽に動ける組織の方なのかもしれません。そういうところが取り組みを始めれば、業界の新陳代謝が一気に進む可能性もあると思います。


もう一つの可能性が3Dプリンターによる住宅です。実証実験も進み、一部では販売も始まっていますが、今のところ外壁の厚みが300mm近く必要だったり、断熱等級6を満たすという確かな情報が見当たらなかったり、構造も毎回一から計算が必要だったりと、日本で求められる構造、断熱、施工性、品質を考えると、普及にはまだ10年程度はかかるのではないかと思っています。


設計事務所は日々の仕事で精一杯なところもあり、明日、1か月後、1年後の仕事が見えていれば随分順調だなあと思ってしまいがちです。でも本当は、5年後、10年後の日本の建築や町並みを、小さいからこそ身軽に動いて良くしていきたいと思っています。


「プレハブ住宅」という言葉は、設計事務所の側からはあまり良い意味で使われません。深く考えられていないプランが大量につくられて町にあふれること、住宅が商品として扱われて本来の文化的な価値を失っていくこと。そんな危惧が込められた言葉です。


では、工業化の結果として住宅が安くなっているかというと、そうでもありません。自分の経験では、ハウスメーカーでは人員の半分近くが営業にあてられていて、しかも競合を前提にプランを提示するので、契約前の作業にかなりの時間を割いています。競合物件ではおおよそ5件に1件しか受注出来ない。取れなかった仕事にかかった費用は、結果として契約した方が負担しているという構図です。


一方で、大きな組織だからこそ自社の工場や研究施設を持ち、時代やニーズに合わせた製品開発が続けられ、必要な情報が社内で共有されていく。この部分は本当に理想的だと、在籍していた身として今でも思います。

設計事務所には営業がいません。設計者が施主と直接話し、必要なことをまとめてかたちにする。その点ではとてもコンパクトに仕事が出来ます。ただ、研究開発に割ける時間はほとんどなく、工業化の良いアイデアを思いついても、数人規模の事務所ひとつで実現するのはなかなか難しいのが現実です。


なので、ここでひとつ提案してみたいのは、設計事務所こそ積極的に工業化や現場の省力化、本来の意味でのプレファブリケーションを見直すべきなのではないか、ということです。いくつかの設計事務所がチームを組んで年間の着工棟数をある程度確保し、その取り組みに協力してくれる工務店と一緒に、コストと性能のバランスを探っていく。そういう組み方が、この時代に設計事務所が示せる回答のひとつなのではないかと考えています。


ハウスメーカーで工業化住宅をつくっていた自分が、独立して手仕事の家をつくり、またプレハブのことを考えている。なんだか一周して戻ってきた様な気もしますが、回遊動線と同じで、一周した先の景色は少し違って見えるのかもしれません。


まだ考えている途中の話なので、また少しずつ書いていこうと思います。(誰か一緒にやってくれる方がいれば、お声がけください。)


 
 
 

コメント


 
POLARSTARDESIGN ARCHITECT OFFICE​

 
ポーラスターデザイン一級建築士事務所​
​

bottom of page