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リフォームと新築、どこで分けるべきかの話

  • 4 日前
  • 読了時間: 8分

リフォームにするか、新築にするか。


うちの事務所は、リフォームの依頼を多く受けているわけではありません。どちらかと言えば新築を得意としている事務所です。


ただ、基本的には来るもの拒まず、去るもの追わず、という考えなので、相談をいただけばリフォームの話も聞きますし、実際に一緒に検討することもあります。


個人的には、今あるものをできるだけ使い続けるという考え方には、とても共感しています。建築としても、本来はその方が正しいのではないかと思うこともあります。


以前暮らしていた栃木県では、古い建物を生かして店舗として使い続ける文化が自然に根付いていました。古い民家や蔵を改修したカフェ、元の雰囲気を残したまま営業しているお店。そういう空間が身近にあり、自分自身もよく訪れていました。


気持ちとしてはリフォームを応援したい。


ただ、施主の自宅で、しかも終の住処になるかもしれない家となると、話は急に難しくなります。



古い家を使い続けるには、見えない部分から考える必要がある


例えば、築40年ほどの木造住宅をリノベーションする場合。


まず考えなければいけないのは、構造です。


築40年ということは、新築時の設計は現在の耐震基準とは大きく違う可能性があります。いわゆる2000年基準以前の建物であれば、地盤調査が今ほど一般的ではなかった時期の住宅もあります。


地盤の強さに応じて基礎を設計する、という考え方も、今ほど厳密ではなかった可能性があります。場合によっては、基礎に鉄筋が入っていない無筋基礎であることもあります。


さらに、柱や梁などの構造接合部に入る金物、耐力壁の量や配置のバランスも、現在の考え方とは違います。


つまり、古い家を今後も安心して使い続けるためには、かなりの構造補強が必要になることが多いです。


ここを曖昧にしたまま、表面だけ綺麗にすることはできます。床を張り替え、壁紙を替え、キッチンを新しくする。見た目は大きく変わります。


でも、それで本当にこの先20年、30年と安心して住めるのかというと、別の問題です。



断熱と外装も、結局は大きな工事になる


構造の次に考えるのが、断熱です。


古い木造住宅の場合、今の基準から考えると断熱材の量がかなり少ないことがあります。場合によっては、ほとんど入っていないこともあります。


断熱が不足している家は、冬寒く、夏暑い。光熱費の問題もありますが、それ以上に日々の快適性に直結します。


今の水準に近づけようとすると、壁、床、天井、窓まわりまで含めて、かなり広い範囲で手を入れる必要があります。これはもう、部分的なリフォームというより、新築に近い考え方です。


外装についても同じです。


昔の住宅は、現在のような外壁通気工法が一般的ではなかったものも多く、雨漏り対策や壁内結露への配慮も今とは違います。外から見て問題がなさそうでも、壁の中で傷みが進んでいることがあります。


木造住宅として寿命を全うさせるには、雨をどう切るか、湿気をどう逃がすか、という外皮まわりの考え方がとても大切です。


そこまで丁寧に見ていくと、やるべきことは自然と増えていきます。



間取りやインテリアの前に、性能の話が出てくる


リフォームの相談で最初に出てくる要望は、だいたい暮らしに近い部分です。


キッチンを使いやすくしたい。寒さを何とかしたい。収納を増やしたい。水まわりを新しくしたい。家族構成が変わったので間取りを変えたい。


もちろん、どれも大切です。日々の暮らしを良くするための要望なので、そこを無視して計画することはありません。


ただ、実際にはその前段階で考えることがかなりあります。


  • 構造的に安全か

  • 基礎はどの程度使えるか

  • 耐力壁をどこに増やせるか

  • 断熱をどこまで入れられるか

  • 窓をどう扱うか

  • 外壁や屋根の耐久性をどう確保するか

  • 雨漏りや結露のリスクをどう減らすか


こうした性能面を一つずつ確認し、必要な補強や改修を積み上げていきます。その上で、ようやく間取り、設備、インテリアの話に進めます。


ここまで書くと、何となく見えてきます。


しっかり直そうとすると、新築とあまり変わらない金額になることがある。


これが、リフォームの難しさです。


表面だけを整えるリフォームであれば、費用は抑えられるかもしれません。けれど、これから長く住む家として、構造、断熱、耐久性まできちんと整えようとすると、工事範囲はかなり広がります。


その結果、新築と同額に近づく。場合によっては、新築より高くなることもあります。



リフォームの相談は、半分カウンセリングに近い


リフォームは、毎回初期条件が違います。


築年数も違う。傷み方も違う。過去の改修履歴も違う。土地の条件も違う。施主の要望も違う。


だから、最初から明快な答えを出すことが難しいです。


「この家を直した方がいいですか。それとも建て替えた方がいいですか」


この質問に対して、すぐに答えられることはほとんどありません。


まず、あと何年この家に住みたいのかを考えます。次に、予算の上限を考えます。その上で、どれくらいの性能を求めるのかを整理します。


ただ、施主自身も最初から答えを持っているわけではありません。


今の家への愛着もある。壊すのはもったいないという気持ちもある。親から受け継いだ家であれば、なおさら簡単には決められません。


一方で、寒さや不便さには困っている。地震も心配。これから年齢を重ねた時に、この家で暮らし続けられるのかという不安もある。


だから、相談はどうしても長くなります。


図面を前にしているのに、話している内容は人生相談に近い。半分カウンセリングです。笑



予算は家賃に置き換えると考えやすい


悩ましい時に、よく使う考え方があります。


この家に住み続けるとして、仮に家賃を払っていると考えたら、月々いくらなら納得できるか。


これを起点にすると、予算の感覚が少し整理しやすくなります。


例えば、月々10万円の家賃を払うと考えます。


住み続ける年数

家賃換算の総額

20年

2,400万円

30年

3,600万円

40年

4,800万円


月10万円で20年住むなら2,400万円。30年なら3,600万円。40年なら4,800万円です。


この金額を、リフォームの予算の目安として見ます。


その上で、新築した場合の価格と比較します。新築住宅は、きちんと設計し、適切にメンテナンスすれば、60年から70年ほど使い続ける前提で考えることもできます。


そう考えると、単純な初期費用だけでは比較できません。


2,500万円のリフォームをして20年住むのか。4,000万円の新築をして60年使うのか。金額だけを見ると前者が安く見えますが、時間軸を入れると見え方が変わります。


もちろん、これはあくまで考え方の整理です。家賃換算が絶対に正しいというわけではありません。


ただ、リフォームと新築を比較するときに、「今いくらかかるか」だけで考えると判断が歪みやすい。何年住むのかを入れると、少し冷静に見られるようになります。



30年以上住むなら、新築の方が安くなることもある


経験上、30年以上住み続けたいという話になると、リフォームより新築の方が合理的に見えることがあります。


古い建物を30年以上使うためには、構造、断熱、外装、設備をかなり広く直す必要があります。そこまで手を入れると、費用は新築に近づきます。


しかも、既存の建物には制約があります。


柱の位置は完全には自由になりません。基礎の状態によってできることも変わります。天井高さ、階段の位置、窓の位置も、すべてが自由に動かせるわけではありません。


新築であれば、最初から地盤調査を行い、基礎を設計し、構造のバランスを取り、断熱や気密、外装の納まりも一体で考えられます。


長期で見ると、その方が費用対効果が高い場合があります。


このあたりが、一つの分岐点です。


もちろん、30年という数字は絶対ではありません。建物の状態が良ければリフォームが有利なこともありますし、逆に築年数が浅くても状態が悪ければ難しいこともあります。


ただ、相談の中では「30年以上住むつもりがあるか」は、かなり大きな判断材料になります。



それでも、損益だけでは決められない


ここまで合理的な話を書いてきましたが、住宅は損益だけで決めるものではありません。


長く暮らしてきた家には、数字にしにくい価値があります。


子どもの頃の記憶。家族で食事をした場所。庭の木。玄関の段差。今となっては不便なものすら、思い出と結びついていることがあります。


それを壊して新築にしましょう、と簡単には言えません。


一方で、愛着があるからといって、住み心地や安全性を置き去りにもできません。寒い家、危ない家、不安の残る家に、これから何十年も住み続けることが本当に良いのか。


この間でいつも悩みます。


建築としては、できるだけ今あるものを生かしたい。けれど、施主の暮らしを考えると、新築を勧めた方が良い場面もある。


理想と合理性の間で、毎回頭を掻きむしるような気持ちになります。



分岐点は、建物と時間と気持ちの交差点にある


リフォームか新築か。


その分岐点は、単に工事費だけで決まるものではありません。


建物の状態。必要な性能。住み続けたい年数。用意できる予算。メンテナンスへの考え方。そして、その家に対する気持ち。


これらを一つずつ並べて、施主と一緒に考えていくしかありません。


ちなみに、リフォームでも新築でも、引き渡し後のメンテナンス費用は必要です。個人的には、月々1.5万円程度は住宅のために積み立てておく方が良いと伝えています。


家は完成した瞬間から、少しずつ傷んでいきます。屋根も外壁も設備も、いつか手を入れる時期が来ます。新築だからメンテナンス不要、ということはありません。


だからこそ、最初の計画で無理をしすぎないことも大切です。


リフォームでいくのか。新築に切り替えるのか。


毎回、簡単には決まりません。毎回、悩ましいですね。


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